前回までのコラムで、「乳房炎防除管理プログラム」のうち、「方法(搾乳法、治療法)」について書きました。
しかし、その方法を、従事者が正しく実践しているとは限りません。
そのため、従事者(人)のマネジメントが必要になります。
そこで、「人・組織」のマネジメントについて書くつもりでしたが、これについてはデーリイ・ジャパン6月号(5月末発刊)に掲載されるので、それまではHPに載せないことにしました。
その代わり、乳房炎の症状や対策について、原因菌ごとに執筆することにしました。
今回は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:SA)です。
平成3年(29年前!)、大学を卒業して、北海道NOSAIに就職しました。
当時から、SAによる乳房炎は現場で問題視されており、治癒率が低いため、治療より盲乳や淘汰が推奨されていました。
つまり、「不治の病」に近いイメージがありました。
あまりに淘汰を推進しすぎて、経営が悪化した農場もあったと、噂に聞いたことがあります。
しかし、現在ではワクチンや、乳房深部に浸透しやすい抗生物質が市販され、かなり武器が揃ったように感じます。
そのため、SA性乳房炎が浸潤した農場でも、ワクチネーションや治療法、搾乳衛生、淘汰基準などを見直し、一連のシステムとして機能させれば、経営を悪化させずに制御することは十分に可能です。
(前回のコラムにも書きましたが)、その実例を示します。
1. ワクチネーション
スタートバックワクチン接種により、群の抗体価を高めて、感染しても治癒しやすい牛群をつくります。
2. 検査と治療
乳房炎を発症したら必ず乳汁を検査し、SA感染を見逃さないようにします。
また、SAが分離された場合の治療として、乳房深部に浸透する薬剤(タイロシン注射、ピルリマイシンの乳房内注入)を選択するなど、獣医師と治療手順を決めておきます。
3. 定点防御
SA感染歴のある牛は乾乳直前に乳汁を検査し、SAが分離されたら3~5日間、泌乳期治療を行い、その後に乾乳にします。
また、分娩した全頭の初乳を培養し、SAを含めて菌が分離されたら、その菌種に応じて治療します。
4. 搾乳衛生
SA感染牛は最後に搾り、搾乳後、ミルカーを殺菌します。
また、感染防御と乳頭皮膚の保護を目的に、バリアー機能や保湿性の高いポストディッピング剤を選択します。
ライナースリップ防止や真空圧調整により、ドロップレッツ現象による伝播を防ぐことも重要です。
5. 早期乾乳/盲乳/淘汰
再発回数、産次数、乳量、感染分房数、妊娠の有無に基づいて、早期乾乳/盲乳/淘汰を実施する基準を決めておきます。
上記1~5の手順を文書化し、一連のつながり(システム)として機能させれば、SA性乳房炎を制御できる可能性は高まります。
実際、3農場でSA性乳房炎を制御したことがあります。
もちろん、淘汰や盲乳を進めるので、経営への影響はゼロではありませんが、極端に経営を悪化させずに、SAをコントロールすることは可能です。
また、知り合いのT獣医師は、ハイレベルの栄養調整を行うことで、SA性乳房炎を制御した実例を持っています。
今後、栄養管理とSA性乳房炎についても、研究が必要と思います。
30年近く前は「不治の病」のイメージがあったSA性乳房炎ですが、技術の進歩で、そのイメージは変わったと思います。
難治性であることは変わりませんが、診断・治療・予防を組み合わせて、システマティックに運用すれば、SA性乳防炎は制御できると考えます。