コラム

10.乳房炎の診断と治療法

今回は、「乳房炎の診断と治療法」です。

乳房炎を正しく診断するには、原因菌の検査が不可欠です。

近年は農場の作業者自らが培養を行うオンファームカルチャーが普及しています。

しかし、せっかく原因菌を特定しても、それに応じた治療法について獣医師と協議しておらず、診断と治療がリンクしていないケースがみられます。

通常、原因菌を分離したら、薬剤感受性を検査し、その結果にしたがって獣医師は抗生物質(乳房炎軟膏など)を処方します。

しかし、難治性乳房炎の原因である黄色ブドウ球菌(SA)は細胞内に感染し、環境性レンサ球菌の一部(Streptococcus uberis など)は乳腺上皮に感染するため、感受性があっても組織浸透性が弱い薬剤では効果は低くなります。

そのため、これらの乳房炎に対しては、組織浸透性の高いマクロライド系抗生物質(タイラン注射薬、ピルスー乳房炎軟膏)や、基質に中鎖脂肪酸を用いた乳房炎軟膏(セファメジンZ、日本全薬工業)が有効といわれています。

一方、大腸菌群性乳房炎では、菌崩壊を促す抗生物質(セファゾリンなど)を感染初期に乳房内に注入すると、内毒素(エンドトキシン)放出が促進され、かえって病態が悪化します。

つまり、抗生物質は薬剤感受性だけではなく、原因菌ごとの病態に応じて選択する必要があります。

オンファームカルチャーを導入したが、乳房炎が減らないという農場では、診断と治療がリンクしていない場合が多くみられます。

そのため、原因菌に応じた「乳房炎対応マニュアル」を、獣医師の指示下で作成しておくことが重要になります。

(抗生物質は要指示医薬品のため、必ず獣医師の指示下で使用して下さい。)

また、乳房炎ワクチンとして、「スタートバック(黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、大腸菌群を対象)」が市販されているので、必要に応じて、ワクチネーションを予防として組み込むことも重要です。

大事なことは、診断・治療・予防を一連のつながりとして文書化(マニュアル化)し、システム(仕組み)として機能させることです。

たとえば、黄色ブドウ球菌(SA)性乳房炎防除の仕組み(システム)として、以下が考えられます。

1.スタートバックワクチンの接種

 群全体の抗体価を高めて、感染しても治癒しやすい牛群をつくります。

2.検査と治療

 乳房炎を発症したら必ず乳汁を検査し、SA感染を見逃さないようにします。また、SAが分離された場合の治療法(タイロシン注射+ピルスー乳房内注入など)を、獣医師と決めておきます。

3.乾乳直前と分娩時の対応

 SA感染歴のある牛は乾乳直前に乳汁を培養し、SAが分離されたら、泌乳期治療を3~5日間行い、その後に乾乳にします。また、分娩したら全頭の初乳を培養し、SAを含めて菌が分離されたら、その菌に応じた治療を行います。

4.搾乳衛生

 SA感染牛は最後に搾り、使用したミルカーはただちに殺菌します。また、ポストディッピング剤は、バリアー効果や保湿効果の高いものを選択します。ライナースリップ防止や真空圧調整によるドロップレッツ現象の防止も、重要です。

5.早期乾乳/盲乳/淘汰

 再発回数、産次数、妊娠の有無、泌乳能力、感染分房数に基づいて、早期乾乳/盲乳/淘汰を行う基準を決めておきます。

上記1~5を文書化し、運用することで、SA性乳房炎を制御できる可能性が高まります。

前回と今回、正しい搾乳方法や治療法について、文書化(マニュアル化)の重要性を含めて説明しました。

しかし、乳房炎を防除するには、従事者がその決められた方法を実践しているか、確認する必要があります。

次回以降、そのような「人・組織」の問題について、解説します。

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