大学を卒業して北海道NOSAIに就職した当時(平成3年)、乳房炎を起こすレンサ球菌といえば、「無乳性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae:SAG)」が筆頭で、伝染性乳房炎の代表菌種として扱われていました。
そして、SAG以外のレンサ球菌は、「それ以外のレンサ球菌(Other Streptococcus:OS)」と区分されていました。
今でも、臨床的には、そのように区分されています。
しかし、SAGは乳汁に浮遊しているので(乳房深部に感染しない)、抗生物質に反応しやすく、近年はほとんど分離されなくなりました。
むしろ、Streptococcus uberisなど、OSの方が問題になっています。
OS性乳房炎は全身症状を起こすことは稀で、特徴的な症状はありません。
そのため、乳汁検査による原因菌の同定が、診断の決め手になります。
なお、OSはStreptococcus uberis など、複数の菌種の総称です。より正確に菌種を同定するには、エスクリン反応などの性状検査を数種、行う必要があります。
また、Streptococcus uberis、Streptococcus dysgalactiae は乳腺上皮など、乳房深部に感染します。
そのため、治療にあたっては、組織浸透性の高いマクロライド系抗生物質(タイロシン注射薬、ピルリマイシン乳房炎軟膏)、基質に中鎖脂肪酸を用いた乳汁拡散性の高い乳房炎軟膏(セファメジンZ)が推奨されます。
薬剤感受性だけで選択すると、感染部位に届かず、治癒率が下がるので、要注意です。
また、千葉NOSAI等で実践しているショート乾乳法(3日間搾乳休止療法)も、OS性乳房炎への効果が報告されています。
予防としては、環境からの感染を防ぐことが重要で、牛体や敷き料の汚れの改善、ミルカーの清潔管理、乳頭口除菌の徹底が挙げられます。
とくに、フリーストールやフリーバーン牛舎で、構造上、牛体(乳房)の汚れを十分に制御できない場合には、ミルカー装着前の「乳頭口除菌の徹底」で防御できる場合があります。
「人差し指と中指で乳頭を挟み、親指の腹で乳頭口を拭く」、あるいは「片方の手で乳頭を保持し、もう片方で乳頭口を拭く」といった手法が推奨されます。
また、タオルで清拭後、アルコール綿やウェットティッシュで乳頭口の除菌を行っている農場もあります。
OS性乳房炎は慢性化すると治りにくくなります。
そのため、診断・治療を適確に行い、初期段階での治癒率を上げることと、搾乳衛生の改善により、感染の機会を減らすことが、鍵になります。
他の乳房炎同様、OS性乳房炎も、診断・治療・予防を組み合わせて、一連のシステムとして運用することが重要です。