今回のコラムでは、生産状況(アウトプット)の分析例を紹介します。
【A農場】
1.バルク乳体細胞数=平均24万個/ml(年間)
ただし、旬検査で30万個/mlを超えることが1年に8回、発生。
2.臨床型乳房炎の発生率(月平均)=10.3±3.5%
3.主な原因菌 黄色ブドウ球菌(SA)42%、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)32%、 環境性レンサ球菌(OS)15%、大腸菌群8%、その他3%
上記のA農場では、バルク乳体細胞数が急に高くなる旬があり、臨床型乳房炎の見逃しが示唆されます。
また、乳房炎発生率が高く(平均10.3%)、黄色ブドウ球菌(SA)の分離率が高くなっています。
つまり、A農場では第一に乳房炎の識別に問題があります(前搾りの実態や、廃棄の基準を確認する必要あり)。
さらに、SA乳房炎のコントロール(感染牛の特定、計画的な治療と淘汰、SA乳房炎に関する講習など)を実施する必要があります。
つまり、A農場の課題は「乳房炎の識別とSAコントロール」といえます。
【B農場】
1. バルク乳体細胞数=平均18万個/ml ペナルティー(30万個/ml以上)発生はナシ
2. 臨床型乳房炎の発生率(月平均)=3.3±2.5%
3.主な分離菌 環境性レンサ球菌(OS)38%、 コアグラ-ゼ陰性ブドウ球菌(CNS)37%、大腸菌群15%、 黄色ブドウ球菌(SA)6%、その他4%
B農場ではバルク乳体細胞数は平均18万個/mlで、30万個/mlを超えることはありません。
乳房炎発生率も平均3.3%とコントロールされており、原因菌の大半は環境に由来するものです。
したがって、搾乳衛生(牛床や牛体の汚れ、ミルキングシステムの汚れ、乳頭口清拭の状況)を調査し、その改善を図ることで、バルク乳体細胞数をより低減できる可能性があります。
つまり、B農場の課題は「環境衛生の改善」といえます。
このように、A農場とB農場では、乳房炎コントロールの状況や原因菌が違っており、問題点(課題)もまったく異なることがわかります。
私は乳房炎防除管理プログラムを実施する際、上記の生産状況(アウトプット)を事前に調査して提出してもらい、現地に行く前にグラフや表にまとめておきます(=見える化)。
これにより、対象農場の課題を知ることができ、どこを重点的に調査すべきかを把握できます。
本プログラムを実施する前は、事前調査をせずに現地に赴き、一律的に搾乳立会や乳汁サンプリングを行っていました。
本プログラムのように、事前に乳房炎に関わる生産状況(アウトプット)を知って農場に行くと、調査の重点がよくわかり、より有効な調査を実施できます。
今回のコラムは、デーリイ・ジャパン誌に掲載された内容を加筆したものです。同誌(2020年3月号)には生産状況(アウトプット)に関するグラフ等も掲載されています。
ぜひ、そちらも参照下さい。
以上のように、生産状況(アウトプット)を把握したら、次にその状況がなぜ起きているか、5つの視点(人、牛、方法、設備と環境、評価指標)から要因を探っていきます。
次回は、5つの視点のうち、「牛の健康性」について解説します。