総合分析の第一歩は、乳房炎に関わる「生産状況(アウトプット)」を調査することです。
具体的には、バルク乳体細胞数・細菌数、乳房炎発生率、乳房炎による乳の廃棄率などを調査します。
よく、「ウチは乳房炎が多くて困っているよ」という声を聞きますが、どれくらい発生しているか、数値で把握している人は少ないように思います。
しかし、“No Measure, No Control(計測できなければ、管理できない)” という言葉があるとおり、数値化して把握することが重要です。
「バルク乳体細胞数」は、一般に20万個/ml以下であれば乳量損失が起こらないとされています。そのためには(リスク回避を考慮して)、15万個/ml以下の維持が推奨されます。
一方、地域によって違いますが、30~40万個/ml以上になると、乳価ペナルティーが発生し、乳量損失と合わせて経済損失が生じます。
また、このレベルの数値では、臨床型乳房炎が混入している可能性が十分にあり、感染伝播のリスクが生じます。
「バルク乳細菌数」は、測定器の設定上、5,000~10,000個/mlを下限値としている場合が多いので、その下限値の維持が推奨されます。
また、細菌数は乳房炎だけではなく、搾乳機器の汚染によっても上昇するので、体細胞数とあわせて評価し、乳房炎/機器の汚染のどちらか、あるいはその両方か、原因を判別することが重要です。
「生乳廃棄率」は、乳房炎のみの場合(初乳や他の疾病による廃棄を除く)、通常3%以内に抑えることが推奨されます。
「(臨床型)乳房炎の発生率」は、まだ十分に標準値が確立されていませんが、主に以下の計算式で算出して、評価しています。
① 発症頭数÷搾乳頭数×100=発生率
月ごとの発症頭数を搾乳頭数で割るシンプルな式です。一般に5%以下が推奨されます。
② 廃棄日数を考慮して計算する方式
(例)4月の乳房炎発生が2頭であった場合
牛A…4/1~4/6(6日間廃棄)
牛B…4/5~4/13(9日間廃棄)
のべ廃棄頭数(6+9=15頭)/30日=1日平均0.5頭の廃棄
0.5÷50頭(搾乳頭数)×100=1%
この計算式の場合、一般に5%以下が標準的で、3%以下が推奨されます。
1%以下を維持している優良農場も存在します。
この計算式は、廃棄日数を考慮しているので、①の計算式に比べて、経済損失をより正確に反映しています。
また、乳房炎が発生した際、原因菌を検査している農場であれば、どのような菌がどれくらい発生しているかを把握します。
乳房炎は原因菌によって治癒率や伝染性が異なるため、原因菌を知ることはきわめて重要です。
生乳廃棄量を記録していない農場や、原因菌を検査していない農場では、当然、それらのデータは取得できません。
しかし、少なくともバルク乳体細胞数や乳房炎発生率は調査できると思います。
そして、得られたデータを標準範囲と比較することで、その農場の乳房炎に関わる生産状況(アウトプット)を知ることができます。
次回、アウトプットの分析例を紹介します。