コラム

第4章 農場HACCPで取り扱うハザード

第4章2.(1)では、各工程に存在するハザードを列挙するよう、求めています。

農場HACCP認証基準では、家畜・畜産物の安全性と家畜衛生に関するハザードを扱います。

HACCPの第一の目的は、「食の安全」です。そのため、家畜・畜産物(食品原料)の安全性に関するハザードを列挙します。

また、安全な食品は健康な家畜から生産されます。そのため、家畜の健康性(家畜衛生)に関するハザードも管理の対象とします。

ただし、家畜の健康性は伝染病(感染症)、代謝疾患、運動器疾患…と幅広く、施設や従事者の技術レベルなども関与します。

そのため、抽出したハザードが、ヒトに危害をもたらすのか、家畜に危害をもたらすのか、整理して作業を進める必要があります。

両者を混同すると、収拾がつかなくなる可能性があります。

たとえば、牛の乳房炎は食中毒の原因にもなるし、牛の健康性も脅かします。つまり、ヒト・家畜の両方に影響するハザードであり、酪農場でHACCPを構築する上で外せない管理対象です。

ヒトへの安全性を考えた場合、細菌数が多い臨床型乳房炎の乳を混入させないこと、すなわち、「前搾り(ブツ等の異常乳検知)」が重要であり、これを必須管理点(CCP)に設定できます。

また、バルク乳の冷却保管も重要で、「バルク乳温の監視」もCCPになりえます。この2つの管理をしっかり行えば、ヒトへの危害発生を十分に制御でき、農場段階での安全を保証できます。

一方、家畜への健康性を考えた場合、牛を乳房炎に感染させない(あるいは感染率を下げる)ための管理手段を考えることになりますが、これは一筋縄ではいきません。

私は牛乳房炎の制御を専門にしていますが、それこそ人(搾乳技量)、搾乳法、牛の健康性(飼養管理)、搾乳機械、環境衛生…、と考えることが多岐にわたります。

そのため、乳房炎制御には、総合的な対策が必要です。ピンポイントの管理で制御できるものではなく、CCPの設定は難しいと思います。

これは、養豚における呼吸器複合感染症(PRDC)などにもあてはまると思います。

つまり、家畜の疾病については、ほとんどの場合、絶対的なピンポイントの管理は存在せず、一般的衛生管理プログラムの中で、各種の専門技術を組み合わせて行うものと考えます。

このあたりが、食品工場のHACCPと違う点です。

元々、HACCPは食品製造における安全管理の技術として考え出されました。食品製造業では、食品安全ハザードだけを扱います。

農場HACCPは、HACCPの仕組みを畜産業に応用したものです。そのため、「食品安全」と「家畜衛生」、2つのハザードを扱います。

しかし、前述のように、この2つはかなり違う性質を持っています。

その違いを認識した上で、ヒト・家畜、両方のハザードを列挙し、どちらに危害を起こすかを整理しながら、ハザード分析を進めていきます。

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